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ホタカ ヴァイヴス

永遠に続く登りと下り、ときどき走り

4年振りに開催された〈上州武尊スカイビュートレイル〉を無事に完走した。

記録は18:35、総合2位。

9月24日、早朝4時。スタート前の小雨はだんだんと強くなり、カウントダウンに入る頃には本降りになっていた。迷ったものの防水性の高いシェイクドライを着ておいてよかった。2時間くらいは振り続けて、最初の難所・剣ヶ峰を越えてからようやく晴れてきた。

トレイルランニングレースのデビュー戦は2012年の上州武尊で当時は50kmだった。はじめてウルトラトレイルに挑戦したのもここ上州武尊で、120kmにのびた初年度となる2014年に完走した。今回はその時以来の9年ぶりで、当時走ったコースの記憶を引っ張り出して臨んだ。ただ、前半の剣が峰と武尊山以外はほとんど記憶がなく、距離128kmに対して累積標高8280mにどれほど走れる区間があるのかは想像がつかなかった。

実際はテクニカルな山域は剣ヶ峰と武尊山のふたつだが、切り開いたような里山や、壁のようなゲレンデ、永遠に続くような林道が最後まで続く。おまけに、登ったぶんを下るので登り以上に疲労を蓄積する難しいコースだ。ただ、多くはないが走れるポイントもあり、めりはりのあるコースプロファイルが上州武尊らしさと言える。行動時間に換算すると、「登り>下り>平坦」と、特色がはっきりしているので、頑張るポイントと抜くポイントを自分の強みに合わせて戦略を立てると奥が深い。

今回は、今まで以上に自分のことだけに集中して動くことを意識した。抜かされても気にせず、抜いても意識せず、最後まで淡々と出力のコントロールと余力の確認をした。欲を言えばもっと頑張れたかもしれないが、今回はこれで良かったと思っている。

最後の下りを終えてロードを走りながらその日一日を振り返る。18:35、長いようであっという間だった。最後まで自分に集中して走り切れたことと、ペーサーもサポートもなく最後まで自分の力でレースを終えることができたことが嬉しかった。ゴールの喜びを味わいつつ、うっすらと次に向かう先を射すような不思議な感覚で今年の夏が終わった。

 

レースプランと展開

ドロップバッグがある75km地点のA5オグナほたかスキー場までを前半、そこからゴールまでの53kmを後半と捉えて計画を立てた。計画と言っても大したものではなく、前半は余裕を持って登りも下りも疲労をためずに進むこと。後半は極力走ってプッシュすること。出力の加減は100マイルレース相当を意識して進んだ。100マイルレースよりは距離が短いものの前半の75kmに対して累積標高は5718m、後半の53kmに対して累積標高は3136mと、どちらも距離に対して累積標高の割合が高く、ハードなミドルレースを2本連続で走るような感覚だ。

・登りは力を抜きつつそれなりのペースで進むこと
・下りは安全第一、極力疲労しないように慎重に進むこと
・斜度によって走りと歩きを厳密に切り替える
・エイドで止まらない

前半抑えることで後半どこまで余力があるのか確認することが目的のひとつだったので、前半の「抑えている」という感覚を記憶しながら、後半に答え合わせをするように走った。必ずしもゆっくり走ることが「抑える」ではなく、地形に合わせて「適切」に出力することが大切だと思っている。そして、「適切」とはゴールまでのイメージと、事前準備を、レース本番に落とし込むその瞬間ごとの感覚的な作業だと捉えている。

自分の場合は、レースが近づくとトレイルのシャトルランを繰り返すことで、「適切」と想定するペースを身体に覚えさせることが大事な作業で、ロングトレイルを走るトレーニングの時は、シャトルランで覚えた「適切さ」が、長い距離でも対応できるのかを確認している。この点で、今回はある程度イメージ通りに走ることができた。補給の安定性も含めて、事前に想定して準備したことがすべてハマったので、安心して次に進むことができそうだ。

それでも、本当は走るべき斜度を後半走れないことが多かったので、余裕を残した割に情けない気持ちにもなった。ただ、ピンポイントで改善点がみつかると次にすべきことが明確になるところが楽しい。がむしゃらに走力をつければ良いわけではなく、一番効果がありそうなことをしっかり取り組むことが自分は好きだ。そのためにも、上手くまとめるレースをたまにやることは大切だと思っている。

 

今回の補給とこれから

昨年の〈KOUMI 100〉と同様に、ドリンクミックスをメインの補給にしながら、前半は90分に1本のジェルを摂った。これはトレーニングで確認したので、「適切」な出力と補給のバランスは崩れることはないと確信していた。ただし、必ず同じ場所で補給を摂れるKOUMIと違って、ほとんどのレースはエイド間の距離も違えば、区間ごとの水分摂取量も変わってくるので、計画通りにエネルギーを補給できるとは限らないのがドリンクミックスの難しいところ。

上州武尊の場合は走る区間が少ないので、自分にとっては補給のプランが立てやすいものの、これが信越五岳のようなコースで、かつもっと積極的な走りをしようとした場合は補給のあり方は根本的に考え直さないといけないと実感した。実際、呼吸商を計測するとエネルギー効率は相当に低く、これからのテーマとなりそうだ。

 

トレーニングと本番のパフォーマンス

おそらく自分だけではなく、Tomo’s Pitの基本はベース・エンデュランス・レース特化の3フェーズから成るピリオダイゼーションだろう。そしてベースとエンデュランス期は手持ちの時間と現在地のなかで、どれだけ積み上げられるかというシンプルな行為の連続だ。

レース特化に関してはターゲットレースに合わせて個々の課題と対策を立てるのでトレーニングの内容は個々で違う。自分の場合は『週間目標「100km / 6000m / 14時間」』をクリアすることが上州武尊対策だった。持ち時間のなかで累積標高6000mをクリアすることが特に難しかったのは前回の記事の通りだが、レース中はほとんどの登りで余裕を持てたので効果は十分に実感した。

面白いのは、週間目標で累積標高6000mと言っても、自分のように平日に毎日500m〜800mを積み重ねる場合と、週末のB2Bで一気に6000mを獲得する場合とで、得られる効果は全く違うことを実感した。今回は実際に取り組んだ方法に効果があったと断言できる。とは言え、持ち時間や、移動も含めた時間の使い方は個々に違うので、結局は自分のライフスタイルに最適な方法を模索することが前提となる。平日の積み重ねが自分にとっては一番効果があることが今回の気付きとしては大きな収穫だった。

去年までは週に使える合計時間の中で最適なトレーニングをすることを意識していたが、これからはもう少し精度高く合計時間の中の運動回数で何がメインになるのかを考えることが大事になりそうだ。

 

理想的なイメージをもとめて

レース特化の課題がとにかくキツく、終わった瞬間に味わった達成感はレース以上だった。もちろん、本番はレースなのでそこから本番までに適度な緊張感を保つことに今回は苦労した。実際にレースの最中もその瞬間に集中することを最も心がけた。そして、実際に18:35のあいだ浮き沈みなく一定の集中を保ち続けることができたのは振り返ると自信になった。ひたすらに、その瞬間の「最適さ」を意識しつづけることは簡単ではない。

反面、これが面白いかと言えば求めているものではない。ここ最近は理想的なイメージで走り切ることができていなかったので、今回は「適切」な出力を維持することに集中した。長くトレイルランニングを続けていくうえでの仕切り直しのようなところだろうか。

本当は無意識に身体が思うままにスタートからゴールまで走りたい。ドラマチックな展開で、自分の力以上のものを出してみたい。偶然を求めるとはそういうことだと思っている。偶然はやってくることもあるし、こないこともある。もしかしたら、そこにあったのに気づくことができなかったのかもしれない。それも含めてのレースなんだろう。

そういう瞬間に触れるためにはもっと思い切ったことをする必要があるんだろう。意識することで現在地を確かめて、今度は無意識に向かって振り子をふっていく。上手く行かないことがあればまた意識の方に戻していく。その往復の連続が面白みだったりする。

そんなことを走りながら考えて、レースが終わってまとめているとふと気づく。これだけの距離を計画的に走ることができるようになったなんて、ウルトラのデビュー戦どころか数年前の自分では考えることができなかった。ずいぶん成長したな、と。日々のトレーニング然り、やっている瞬間は夢中だけど、長い時間を振り返ると意外とものごとは前進してる。